フリークライミングにおける「チョンボ棒」の使用について

備中常連クライマーの稲垣智洋さんから、、チョンボ棒についてのご意見をいただきました。
いただいた内容が、スタイル面だけではなく「安易な使用が認識能力と判断力の習得機会を失う」という安全面についてを言及したものなので、全文を紹介します。

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 最近、岩場に行くと、チョンボ棒(チータスティックなどとも言う)を持っている人をよく見かけるようになりました。
10年程前だとほとんど見かけることはなかったと思うのですが、近頃はどちらかというと持っていない方が少数派となっているような感じで、もはや フリークライミングで市民権を得た感のある道具となりつつあります。(実際、フリークライミング用として販売もしている)

 もともと、このチョンボ棒はその名のとおり、人工登攀でまさしくチョンボするために使われ始めた道具で、フリークライミングの道具ではなかったのですが、いつの頃からかフリークライミングでも使用されるようになりました。
最初の頃は1本目のボルトをプリクリップをするために使われていたと思いますが、今では複数のボルトにプリクリップ、プリセットしたり、登りなが ら、上のボルトにクリップするというのも珍しくはありません。

 本来、フリークライミングは自分の身体一つで岩を登るというスタイルですから、前進手段として積極的に使える道具はチョークとシューズのみで、 それ以外の道具は墜落から身を守るための道具であるというのが当然でした。
私も仕事柄(クライミングスクール)、それが当たり前というふうに指導もしてきました。
いつから、フリークライミングは人工登攀でムーブを探り、レッドポイントをするという、スタイルを受け入れるようになったのでしょうか?
これはグレード重視という考え方から始まった非常に安直なスタイルなのでしょうが、今やこちらが主流となりつつある現状に、私は大きな危惧を抱きます。

 フリークライミングをするには登る技術だけでなく、落ちる技術やそれを確保する技術もしっかりと身につける必要があり、低いグレードからでも しっかりと数をこなし、経験値を高めていかなければならないものです。
特に技術の未熟なうちはむやみにグレードを上げず、自分がコントロールできる範囲で経験を積み、登るだけでなく、しっかりと落ちる技術、確保する 技術も磨かなけばなりません。そして最も大切なのが危険の認識能力とそれに対する判断力を身につけていくことです。
しかし、チョンボ棒を使用して肝心な場面を落ちないクライミングしている人たちは、そのクライマーとして一番大切な能力を学ぶ機会をなくしている ような気がしてなりません。

 真の安全とは道具などに頼るのではなく、その人のクライマーとしての能力にあると断言します。
ぜひ、チョンボ棒を使わない勇気をもってください。そして自分の身の丈に合ったルートをトライしてください。経験を積めば必ずコントロールできる 範囲は広がります。
そうすればきっとあなたにもクライミングの奥深い世界が広がってくるはずです。

(平成24年1月19日更新)