外岩におけるルートクライミングのマナー・安全など

外岩でクライミングする方に
知っておいてもらいたいこと

これは主にスポートクライミング(ボルトルート)を登られる方向けに書かれています。
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オウンリスクの原則

クライミングは危険を伴うスポーツです。たとえ、「ルール」を守っていても時として最悪の結果を招くことがあります。行動の結果が予測できない人や、予測できても、自分には受け入れられないと考える人は、クライミングをするべきではありません。同様に、完全な安全を求める人は、クライミングを行うべきではありません。

スポートルートクライミングはクライマーとビレイヤーがパートナーとなります。クライマーはビレイヤーに適格な指示をする必要があり、ビレイヤーはクライマーの指示に従わなければなりません。信頼できるビレイヤーにビレイは依頼すべきです。

終了点の使用について

終了点の使い方-QD1本リング使用(トップロープ不可)

リードクライミングで同じルートを複数回登る場合、終了点には自己クイックドローを1本ないしは2本掛け、それを使ってロワーダウンするようにしてください。これにより残置カラビナでのロワーダウンの頻度を減らし、残置カラビナへの摩擦による摩耗を減らすことになり、残置カラビナの延命につながります。残置カラビナを利用してロワーダウンするのは自己のクイックドローの回収時だけにしてください。

終了点の使い方-QD1本上ハンガー使用(トップロープ不可)

終了点に掛けた自己のクイックドローにより終了点へのクリップホールドが変わってしまうなどの状態にならないように注意してください。残置カラビナへもクリップできる位置に自己のクイックドローはセットすべきです。スタイルの問題ですが、長いクイックドローを終了点へセットし、本来の終了点へのクリップホールドよりも低い位置から終了点へクリップしてレッドポイント(RP)とすることは決して称賛できるスタイルではありません。

終了点の使い方-QD1本下ハンガー使用(トップロープ不可)

ロワーダウン用にクイックドローをセットする場合、ハンガーやリング又はチェーンなどにセットし、残置カラビナにはセットしないでください。

残置カラビナ自体いつ誰が提供したものかわかりませんし、摩耗して強度が低下している場合もありますので、残置カラビナにロワーダウン用のヌンチャクをセットすることはお勧めできません。

摩耗して危険な残置カラビナや錆びてゲートの動きが悪くなっているカラビナ、老朽化の著しいカラビナなどを発見した場合、積極的に状態の良いカラビナへの交換をお願いします。残置カラビナとして提供できるものを1、2枚常備するようにしてください。過去にカラビナの摩耗によってロープが切れて事故につながったケースもあるようです。

残置カラビナがない場合などに備えて結び変えの技術の習得も必要です。

終了点の使い方-QD2本(トップロープにも使用可能)

トップロープをセットして登る場合は必ず2箇所以上から自己のクイックドローで支点を取ってください。その際クイックドローのカラビナの向きは、ゲートがお互いに外向きになるようにセットするか、安全環付きカラビナを使用するようにしてください。

終了点の使い方-残地カラビナにQDセット-悪い例、危険

残置カラビナに直接ロープを掛けてトップロープは絶対に行わないでください。トップロープは終了点が唯一の支点となりますので、外れたり破断した場合、直接事故につながり非常に危険です。

トップロープの詳しいセットの仕方についてはJFAの安全BOOKなどを参考にしてください。

中間支点に残置されたカラビナについて

中間支点に残置されたカラビナ

被ったルートや斜上するルートなどではその中間支点にカラビナが残置されている場合があります。これは回収用に残置されたカラビナで、自己のクイックドローの回収を容易に行えるようにするために残置されているものです。

敗退用のカラビナと間違えて回収しないようにしてください。ロワーダウン時にクライマー側のロープを回収用の残置カラビナに通すことで支点位置が変わり被りの影響を低減できます。また、回収用の残置カラビナも摩耗が激しい場合など積極的に自己のカラビナと交換をお願いします。

中間支点に回収用カラビナがある場合の
クイックドローのセットについて

回収用カラビナがある場合のQDのセット方法

中間支点に回収用の残置カラビナがあるルートをマスターでトライをする場合、その回収用の残置カラビナの下に自己のクイックドローをセットするようにしてください。

回収用カラビナがある場合のQDのセット-良い例

これはフォールした際にセットした自己のクイックドローへ余計なダメージを与えないようにするためです。

回収用カラビナがある場合のQDのセット-最も良い例

複数回同じルートをトライする場合、回収用カラビナはセットしたクイックドローのハンガー側のカラビナに掛けておくと、ハンガーに自己のクイックドローのカラビナが引っ掛かるなど不測の干渉を避けることができます。

回収用カラビナがある場合のQDのセット-悪い例

回収用カラビナと自己のクイックドローのカラビナが干渉している状態でフォールすると自己のクイックドローのカラビナに深刻なダメージを与える場合があります。

クイックドローをセットする向きについて

クイックドローのセットされていないルートを登る際、ゲートの向きにも考慮してロープがカラビナから外れる事による墜落リスクを低減すべきです。ロープ側カラビナのゲートの向きが登る方向と一緒の場合、フォールした際ロープがカラビナから外れやすくなります。可能であればオブザベーションの際にクイックドローをセットする方向も考慮すべきです。また、登ってみた結果クイックドローの向きを修正すべき中間支点があれば、ロワーダウンの際などに修正すべきです。自分以外にもそのルートを登る人がいる場合は、セットしたクイックドローを使うことになるので、正しい方向でセットしリスクの低減に努めてください。

リボルトされたケミカルボルトはその特性上ハンガーよりもボルト側のカラビナが外れるリスクが高いようです。ケミカルボルトで施工されたルートほどセットするカラビナの向きを考える必要は高いように思われます。

岩の形状などによってはボルト側のカラビナを反転させた方が良い場合もあります。

既にクイックドローがかかっているルートを登る場合

既にクイックドローがセットされているルートを登る場合、セットした方のクイックドローを借りて登ることになります。クイックドロー自体はロープなどに比べれば消耗の少ないギアですが、クイックドローの所有者に一言かけ了解を得るべきです。誰のクイックドローか不明な場合もあると思いますがエリアで声をかけ所有者や所有グループの了解を得るようにしてください。

セットされたクイックドローを借りてルートを登り、中間支点などでセルフビレイを取る際、ロープ側のカラビナにセルフビレイを取られることを嫌う方がいます。これはロープ側のカラビナにプーリー付きの特殊なカラビナを使用している箇所がある為や、金属製のカラビナを掛けることでカラビナに傷が入り結果ロープを痛める恐れがあることを嫌う為などの理由からです。自己のクイックドローをセットされる方で、ロープ側のカラビナにセルフを取られる事を嫌う場合、登る方にその事を伝えるべきです。クライマーはそのような指摘がある場合などはハンガー側のカラビナ等にセルフビレイを取るようにして下さい。

トライ時間について

個人やグループで一つのルートを長時間独占しないようにしてください。同じルートを登る方がいなければ問題ありませんが、複数人いる場合はある程度の時間で降りるようにしないと全員が複数回登れなくなる場合があります。自分と同じルートを登っている方や登りたい方が何人程度いるのか積極的に把握するようにしてください。また、新たなルートをトライする場合もどの程度そのルートを登っている方がいるのか把握するようにして、そのルートを登る人数が多い場合、他のルートに変更するなど考慮してください。ルートにもよりますが混雑時の1回のトライ時間は40分~1時間が限度と思われます。

トップロープで複数人繰り返し登る場合は周囲の方に声をかけ、そのルートを登りたい方がいないかなど確認すべきです。他に登りたい方がいる場合は順番を譲ったり、登るたびにロープを抜くなどしてください。声掛けせずトップロープを掛けっぱなしにしたまましばらく放置することは、他の方が登る機会を奪うことになるので遠慮してください。

登攀中のギア管理について

登っている最中にクイックドローなどのギアを落とし、落としたギアが下にいる方やビレイヤーの頭などに当たると大けがになるなどの可能性があり、非常に危険ですので細心の注意を払ってください。セルフビレイを取る際などはセルフビレイ用のクイックドローをギアループから外さず、ロープ側のカラビナをビレイループに掛けてからギアループから外すなどの手順でセルフビレイを取ると一度もハーネスからセルフ用のヌンチャクが離れることがなく安全です。もし落としてしまった場合、大声で「落!!」など叫び下にいる方に注意を促すようにしてください。

一度高所からクイックドローやカラビナを落とすと、表面上問題なさそうに見えても、強度に関して致命的なダメージを受けている場合があり、そのカラビナやクイックドローはその後クライミングには使用しない方が良いとされています。

クイックドローの連結について

クリップが難しい、怖いなどの理由でクリップポイントが変わるような過剰に連結したクイックドローをセットしたままにしないでください。自分たちの他に登っている方がいない場合や、自分たちの他に登りたい方がいない場合はスタイルの問題になると思いますが、他にトライする方やトライしたい方がいる場合は過剰な連結はすべきではありませんし、その都度過剰に連結した部分は回収すべきです。他に登る人がいる場合で過剰に連結したクイックドローを残す場合は、連結理由の説明と許可を得るべきです。これは本来の意味でのオンサイト(OS)やフラッシュ(FL)、レッドポイント(RP)の機会を奪う行為だからです。自分勝手にクイックドローを過剰に連結するのはモラルに反します。ロープの流れをスムーズにするためや、低身長を補うためなどであり、クリップホールドが変わらない2本程度の連結であれば一般的には許容されているようです。

また、クイックドローを連結することは連結部分のカラビナが外れる可能性があるということで、クイックドロー単体使用よりリスクがあることは認識しておく必要があります。連結部分のカラビナに環付ビナを使用したり、スリングを使用したりしてリスクを低減することも必要です。連結の際カラビナとカラビナの連結は絶対にしないでください。

支点の確認

岩に施工された中間支点や終了点はボルトが緩んでいる場合があります。緩んでいるボルトをそのまま使うことは非常にリスクが高く危険です。緩んでいるボルトを見つけたら締め直せるようグループで1つは小さいレンチを持っておくようにしてください。

ビレイについて

外岩でのビレイは、クライミングジムなどの施設で行うような「とりあえず墜落を止めればよい」というものとは違い、より状況に応じた適切なビレイを行う必要があります。クライマーがフォールした際、クライマーへの衝撃を緩和するためのダイナミックビレイや、ロープを多く流しクライマーが壁へ激突するのを避けたりする技術の習得や向上に努めるべきです。この技術の習得や向上によりクライマーがフォールによって被るリスクを低減できるはずです。

ビレイポイントも不安定な場所の場合も多く適切にセルフビレイを取ったうえでビレイする等自分自身の安全を確保することも必要です。ビレイポイントが傾斜地などでクライマーが1本もクリップせず落ちた場合、ビレイヤーもクライマーに巻き込まれ傾斜地を落ちることになります。

ビレイ中のビレイヤーに気軽に話しかけることはビレイに対する集中力を欠きクライマーを危険に晒す可能性があるので気軽にビレイヤーに話しかけるのはやめてください。

スポートルート用を謳うオートロックやブレーキアシスト機能の付いたビレイデバイスもありますが、これらの中には国際山岳連盟(UIAA)の基準で支点強度が20KN保障されているルートでの使用を前提としているものがあります。支点によっては強度の低いアンカーで施工されたものがあり、前提とされる支点強度に満たない場合も多くあります。このことから、支点自体に対する衝撃を緩和するようなダイナミックビレイを行う必要のある場合や、ビレイデバイス自体についてもより適切な選択をすべき場合があります。

クライミングのスタイルについて

クライミングのスタイルや完登スタイルを他人に強要すべきではありません。しかし、フリークライミングにおいて「再登者は初登者よりも同等かより良いスタイルで登るのが原則」とされていることを知っておいてください。初登者がどのようなスタイルで完登しているかを知る術は多くはないですが、この原則に拘りを持っている方も、持たない方も両方います。例えば1ピン目まで強度も高度も高いルートを登る際など、初登者のスタイルに拘らずオウンリスクの原則に当てはめ自分自身で判断し、場合によってはプリクリップの選択やトライを止める判断をするべきかもしれません。

プリクリップについても、過去には「地面から登って〇本目まで普通にクリップし、そこから地面までクライムダウンすること」が次からそのルートにトライする際〇本目までがプリクリップが許される前提だったことがあることも知っておくべきです。また、このスタイルに拘っている方もいることも知っておいてください。プリクリップは当然の行為ではありません。

気軽にムーブやホールドを伝えてしまうこと等はオンサイトトライをしている方やこれからオンサイトトライをする方の機会を奪うことになります。また、自分でそのルートを解決することを楽しんでいる方も多くいることを知っておいてください。親切で教えているつもりが迷惑に感じられていることもありますので、伝える際は本当に必要なのかよく考えてください。

ティックマークについて

ティックマークとは、ホールドやスタンスにチョークなどを使って目印となる印を岩にマーキングする行為です。過剰にティックマークを付けないでください。過剰なティックマークは本来の意味でのオンサイトトライや岩登りの楽しさを奪う行為にもなります。ティックマークを付けた場合確実にブラシなどで掃除してください。

チッピングについて

クライミングにおけるチッピングとは岩を削ったり叩いたりして岩の形状を変えることです。故意的に行うチッピング行為は絶対にいけません。金属製のブラシで岩を掃除する行為もチッピング行為に当たる場合もありますので、金属製のブラシは普段のクライミングでは使用しないでください。

クライミングをしている際にホールドやスタンスが自然に欠けてしまう場合がありますが、影響が大きいと思われるものはJFAや地元のクライミング団体に報告してください。

エリアの整備について

エリアの整備を積極的に行ってください。エリアの環境に無関心であると自然回帰していきます。アプローチやエリアの整備を各人が積極的に行うべきです。剪定鋏を持ってアプローチしたり、休憩中に自分の周りの草抜きをしたりと、ちょっとした時間でできることは多いと思います。ただしエリアによっては国立公園内であったり国定公園内であったりする場合があるのできちんと判断をお願いします。クライミングエリアは特定の管理者がいない場合がほとんどですので、自分たちで環境を維持する努力を行う必要があります。

各地のエリアで行われている清掃活動など積極的に参加をお願いします。

基本的な事について

【各エリア個別ルール】
各エリアの個別に定められているローカルルールについては遵守してください。

【ゴミ問題】
ゴミは確実に持って帰りください。ごみを見つけたら自分達が出したものでなくても積極的に持ち帰りください。

【糞尿問題】
近隣の公衆トイレの利用、携帯トイレの持参も考慮してください。糞尿問題によって閉鎖になりかけたエリアもあります。

【整理整頓】
エリアでは自分たちの荷物を散乱させず整理整頓してください。登った後のロープなども、そのままにせず隅に寄せるなどして皆で快適にエリアが使えるよう努めてください。

【騒音問題】
近隣住人などに迷惑となるような大声や騒音は出さないでください。OSやRPトライ中の人などに対しても配慮してください。

【岩の掃除】
登った後はブラシでチョーク跡などを掃除してください。岩の隙間から草など伸びている場合は積極的に抜いて掃除するようにしてください。

JFA

国内の多くの岩場がJFA(Japan Free Climbing Association) の資材提供によってリボルトされ、より安全な支点への交換と維持がされています。是非JFAに加入してください。リボルト費用などは会費によって賄われています。

 また、JFAよりfreefan別冊としてJFA安全BOOKが発刊されています。フリークライミングを行う上での安全に関することが書かれていますので是非ご一読ください。現在は4.1まで発刊されていますが、初刊に関してはPDF版ダウンロード(ZIP圧縮 5.16MB)にて読めるようになっています。

※ここにある内容については全てが完全に統一化されたものではありません。これとは別に様々な意見・考え方、マナー・ルールが存在することも事実ですし、それらを否定するものではありません。しかしながらこれらの内容は、外岩を登るクライマーとしてのマナーや安全の為の一つとして知っておいてもらいたい内容です。

 TCnet事務局
(2021年9月改訂)
(2022年1月一部改訂)